スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

楽園のカンヴァス

 43歳のシングルマザー早川織絵は倉敷の大原美術館で監視員として働いている。ある日、彼女を訪ねて新聞社の文化事業部の人間がやってくる。アンリ・ルソーの傑作『夢』をMOMAが貸し出す可能性があると言う。しかしMOMAが日本側の交渉窓口として、一介の美術監視員にすぎない織絵を指名してきたというのだ。MOMA側の責任者の名はティム・ブラウン。ティムと織絵は今をさかのぼること10数年前、スイスのバーゼルで出会っていた…。
 物語の現在である2000年の倉敷、織絵とティムが密命を帯びて出会った1983年のバーゼル、そしてアンリ・ルソーの晩年にあたる1906年のパリ。3つの時代と場所を往来しながら アンリ・ルソーの隠れた傑作を巡って織絵とティムの不思議な縁(えにし)が回顧されていくという美術ミステリー   (アマゾンより)

 直木賞候補作にもなった原田マハさんの代表作といえる作品です。なんとなく食わず嫌いで今まで手に取ることはなかったが、読み始めたら止まらずに一気に読んでしまった。
人の作品に上塗りするようなものだが、読んでいくうちに全く違うストーリーを自分の中で描いていた。そして、それを書かずにはいられなくなってしまった。
 本作で気になったのは、ティムと織絵の対決の場面が弱いことと、織絵という人間の印象があまりにも弱いことだ。ルソーの「夢を見る」に対する講評も、その後の話の展開もティムが中心であり、織絵は脇役にさえなっていない気がする。彼女は上司の子供を身ごもって、結婚を餌にのこのことバーゼルにやってきたという印象は否めない。これでは、彼女がかわいそうすぎる。
 こんな展開はどうだろうか。まだブレイクしていないアンリ・ルソーの展覧会を企画しているティム。彼は優秀であり、ルソーに対する造形も人一倍ある。だが、企画展を成功させる決定的な何かが欠けていた。その流れの中で、本作の対決が繰り広げられる。織絵とティムが読んでいく不思議な物語の中でティムの心の中にはルソーのさらなる魅力に惹かれていく。一体作者は誰なんだろうか? そして、最後の物語を読んで気づく。これは、織絵が書いているということを。彼女は彼の前に読んでいたのではなくて、この物語を彼に読ませるために書いていたのだ。対決を仕組んだ老コレクターも織絵もルソーが多くの人に認められるようになるためにティムに彼の想いを伝えたかったのだ。"Passion"その意味を理解したティムはルソーの展覧会を成功させ、チーフ・キュレーターとなる。だが、老コレクターは1年後に亡くなり、織絵の消息は、対決以来プッツリと分からなくなってしまった。
 10年後、ティムは第二回アンリ・ルソー展を企画する。そして、MOMAの「夢」と「夢を見る」を同時に展示する計画を立てる。テーマは「なぜルソーは二枚も同じ構図で描いたのか?」であったが、ティム自体まだ明確な答えを見いだしてはいなかった。その頃、「夢を見る」はなぜか大原美術館に寄贈されていた。その理由を知るものはいなかった。ティムは貸し出しの交渉をし、答えを見いだすために自ら大原美術館に向かった。そして、そこで監視員をしている織絵と再会する。彼女はブルーピカソが隠されているかもしれないその絵を文字通り監視するためにずっとここにいたのだ。そして、織絵は10年間見続けたことで分かった、この絵に隠されたルソーの真意を語り出す。「絵を一番見ているのは、キュレーターでもなく、コレクターでもなく、監視員だ」というあの頃の言葉がよみがえってくる。そして、MOMAの「夢」の女性の指先の秘密をティムが語ったとき、二人は二枚同じ構図で書いたルソーの思いを初めて理解する。
 第二回企画展は成功し、「夢を見る」の所有者である女性から一通の手紙をティムは受け取る。そこには「夢を見る」をMOMAに寄贈する旨が書いてあった。2枚の絵が一緒になったと同時に、ティムと織絵も10年の時を経て、一緒になる。

 これだけ勝手な妄想が、どんどんわいてくる小説も珍しかった。織絵はこの小説の中でシングルマザーである必要はないと思う。二枚の絵と、二人の出会いと再会の物語でいいのではないだろうか。
スポンサーサイト

テーマ : 文学・小説
ジャンル : 小説・文学

プロフィール

Banana  fish

Author:Banana fish
村上春樹をこよなく愛する者です。タイトルは「風の歌を聴け」に出てくる台詞から引用しました。タイトル通りにありふれた現実と美しい映画や文学について書いていきます。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
訪問者
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。