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百年法 ネタバレ

 久々に読書を心ゆくまで楽しめた。次回の本屋大賞はこれで決まり。これ以外の「もしも猫が・・・」あたりがとったら、賞の名が泣きます。設定といい、テーマの重層さといい本当に素晴らしい。これをあの「嫌われ松子の一生」と同じ作者が書いたとは思えない。作家の守備範囲の広さを思い知らされた。
 さて、前置きはこれくらいにしておいて、本作であるが、あらすじはアマゾンから拝借する。

原爆が6発落とされた日本。敗戦の絶望の中、国はアメリカ発の不老技術“HAVI”を導入した。すがりつくように“永遠の若さ”を得た日本国民。しかし、世代交代を促すため、不老処置を受けた者は100年後に死ななければならないという法律“生存制限法”も併せて成立していた。そして、西暦2048年。実際には訪れることはないと思っていた100年目の“死の強制”が、いよいよ間近に迫っていた。経済衰退、少子高齢化、格差社会…国難を迎えるこの国に捧げる、衝撃の問題作。   


 テーマがとにかく多岐にわたっており、いろいろ考えさせられる。まずはじめにあるのは、衆愚政治であろう。これは現在の日本のみならず、世界的にみて民主主義は破綻しかけている現状をうまく書いている。日本全体が不老不死の人間ばかりになれば、必然的に人口が加速度的に増え、されに社会全体の新陳代謝がなくなり国力は衰えていく。誰もがそのことを理解しているが、そのために自分の首を絞める百年法に対しては、誰もイエスとはいはない。来たるべき未来の危機よりも目先の事を考える人間に痛みを伴う改革などできないのだ。党利党略で動く政党政治では、大切なことは何も決まらず、些細な事柄に対する決定も恐ろしく時間がかかる。
 だが、下巻の最後に真の危機が迫ったときに、人々は自らを犠牲にしてまでも日本の未来を守り抜く決断をする。そこに一筋の希望が見えた。先人達の大きな犠牲の上に成り立っている社会を大切にしようという気持ちがさらなる原動力となって、未来を支えていく様子はすばらしい。「人は最後の最後には理性的にうごくのはずだから、民主主義を大切にすべきだ」といえなくもない。しかし、実際には遊佐という類い希な人物が首相になり、独裁官になったからこそなしえたことである。作中の日本の100年間は全てこの人物一人によって守られたと言っても過言ではない。そうなると、我々は100年に一度いるかいないかという独裁者の到来を待たなければ、危機を乗り越えられない。マキャベリの「君主論」をモチーフにしているが、民主主義と独裁主義 両方の限界が見えてくる。現代日本は、返済しきれないほどの借金を抱えつつも、未来のために自分の生活を犠牲にできない我々と、さらにその決定をゆだねられる指導者がいないという二重の不幸を抱えている。
 次に考えさせられたのは、死生観である。100年に一人の逸材である遊佐でさえ、100年法適用という死を間近に控えたときには、死におびえて適用除外の特例を唯一出せる大統領におもねってしまった。死はそれほどまでにおそろしいものだ。それは人から理性を奪ってしまう。大統領特例で延命処置を受けた人間はただただ生に執着するだけの人生を送る。だが、大統領にからかわれて死を宣告された遊佐はそこから死への恐怖に打ち勝つ。彼の素晴らしいところは、生に固執していた自分をそこで断ち切ったところである。これは普通の人にはできない。特に「政治生命を賭ける」などと安易に使っている政治家にはできようはずがない。生命とはそれほどとまでに尊いもので、簡単に賭けることができるものではないからだ。
 一方で、百年法が撤廃された後に、自殺者が急増する様子も死への恐怖と矛盾しているように思うが、人間の複雑な死生観をよく表している。人は限りあるからこそ人生を楽しむことができるのだ。そして、無限に続く人生にたいして、絶望してしまう。死にたくはない、だが、永遠に生きることも望まない。人はだからこそ「運命」や「寿命」と言った言葉を素直に受け入れられるのもしれない。
 また、偶像崇拝についての考察もおもしろい。百年法撤廃を掲げるテロリスト「阿那谷童仁」 それは、完全に一人歩きしている偶像に過ぎなかった。人々は期待する人物像を作り上げて、それ以外は認めない。自己顕示欲の強かったつまらない人間が作った架空の名前が、人々の期待に添うようにどんどん神格化されて行ってしまう。当の本人が死亡しても逮捕されても、誰もそれが「阿那谷童仁」とは認めない。キリストなどもそうやって神様にまでなってしまったのだろう。ユリウス・カエサル曰く「人間ならば誰にでも、現実のすべてが見えるわけではない。多くの人は、見たいと欲する現実しか見ていない。」
 最後に、遊佐が後継者に語った言葉が良い。
「国力がいかに低下しようとも、インフラのメンテナンスを怠るな。ライフラインと物流が国の両輪だ。、思想、宗教、生きがいなど目に見えないものは個人に任せておけばいい。政治家がやるべき事は国民が人間らしい生活をする物理的基盤を整えることだ。なぜなら、それは政治家にしかできないことだからだ。最終的にその目標が達成されるなら、いかなる悪評も恐れてはいけない。」
 素晴らしい!愛国心やら道徳教育やらとやたら国民に思想を押しつけたがる誰かさんに聴かせてあげたいセリフである。
 まだまだたくさん思うところがあるが、この辺にしておこう。

 
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テーマ : 文学・小説
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村上春樹をこよなく愛する者です。タイトルは「風の歌を聴け」に出てくる台詞から引用しました。タイトル通りにありふれた現実と美しい映画や文学について書いていきます。

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