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風たちぬ ネタバレ


どんな作品であろうと世間に好意的に受け止められる人が、日本には少なくとも二人いる。村上春樹と宮崎駿である。彼らには驚くほど共通点がある気がする。年々、彼らの作品は凝縮感が無くなっているが、読者によってその世界観が広げられている。様々な人がいろいろな解釈をすることで、作品の密度がどんどん濃くなっている。ただのエロ小説といわれても仕方の無い「多崎つくる・・・」もハルキストによってすばらしい作品へと昇華したわけだ。また、どんな内容でも彼らの手にかかれば、彼ら独自の様式美をまとった作品になってしまう。そして、プロットを細かく作らず、登場人物に感情移入することで、ストーリーを編んでいく手法もよく似ている。したがって、東野圭吾 のような見事なまでのストーリー展開や伏線はなく、それがかえって読者の考える余白をたくさん生んでいる。
 さて、前置きが長くなってしまったが、「風立ちぬ」を見た。おそらく彼の最後の作品であろうが、突っ込みどころ満載である。まず、堀越二郎と堀辰雄という全く違った二人の人生を重ねて一人の人生にしてしまったので、つぎはぎだらけの人生になってしまった。自ら設計した飛行機がテスト飛行を失敗したことで、失意のまま軽井沢に向かい、そこから全く違う堀辰雄のストーリーが展開する。また、声優で庵野さんを選んだのは明らかに失敗だ。最近のジブリ映画は商業主義が進んでちょっと話題性を重視しすぎるきらいがある。愛弟子で自らもアニメ監督である庵野さんが初挑戦。手慣れた 声優ではなく、朴訥とした声を持つ彼に選んだというが、どう贔屓目に見ても違和感あった。所詮素人なので浮きまくって、見ていてつらい。さらに、モノラル録音にこだわったり、効果音を人の声で再現してみたりと、ノスタルジーに浸りまくっているが、科学の力を否定して、時計の針を戻そうとしても無理がある。モノラルのせいで大音量になって音楽は耳障りだ。そして、フィクションの中でも禁じ手とされる「夢落ち」を多用しているのもずるい。あったことも無いイタリアのカプローニと夢の中で出会い、二人で語らせることで心象風景を表現している。この手法では、何でもありになってしまう。
 上に書いたような感想は多くの人が感じることだろうと思う。だが、宮崎監督はおそらくこんな事は 気にしていないし、気にする必要も無いと思う。彼は、自分が好きなものをただ描いているだけだ。飛行機が好き、列車が好き、そして、タバコが好きで思いのままにそれを描いている。この作品の主人公である堀越二郎は自分の現実の過去と叶えられることの無かった過去を投影しているまさに宮崎監督本人である。美しい飛行機をひたすら求めて作り続けた堀越二郎は彼のあこがれであり、時代が違えば同じような人生を送りたかったに違いない。また、カプローニとの夢の中での出会いも、おそらく彼自身の夢では無いだろうか。「紅の豚」にもあるが、彼のイタリアへの傾倒はかなり激しい。
 好きなことを好きなように取り組むオタクには、思想などあるはずもない。原爆を作ったオッペンハイマーも零 戦を作った堀越二郎もロケット開発のフォンブラウンもただただ、好きなことができる環境の中で自分のやりたいことを追求しただけだ。彼らに道義的な責任を押しつけてしまうのも酷な気がする。それを作ったらどうなるか、世界はどう変わるか、そんなことを考えることも無かったのだろう。責任を負うべきは、彼らを利用した人々である。宮崎監督もこの作品で戦争礼賛などという、言いがかりをつけられているが、そんな思想は彼にはない。彼は美しい飛行機と大好きなタバコを描きたかっただけなのだ。しかし、ラストシーンでは堀越二郎に、自らの犯した残酷な現実を目の当たりにさせている。累々と広がる零戦の残骸のなかでカプローニに話をする。「君の10年はどうだった?」「最後の方はボロボロ でした」「そりゃそうさ。国を滅ぼしたんだからな」でも、最後に亡き妻菜穂子が言う、「(自分の犯した結果を受け止めて)生きて」と。
 彼が、試写会で号泣したのもうなずける。これは彼の物語であり、彼の人生である。昔を懐かしみ、かなえられなかった青春の影である。彼にとっては特別な自伝なのだ。作中でカプローニが言っていた。「創造的人生の持ち時間は10年だ。君の10年を力を尽くして生きなさい」と、ナウシカを作ってから、「千と千尋」まで20年。彼の創造的活動期間はとうに終わっている気がする。カプローニが最後に堀越二郎にいう、「創造的に活動できる10年をしっかり過ごしたかい?」これは、彼自身への言葉では無いだろうか。彼は十分に創造的活動を行って我々を楽しませてく れた。もう十分だと思う。今まで本当にありがとう。
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Author:Banana fish
村上春樹をこよなく愛する者です。タイトルは「風の歌を聴け」に出てくる台詞から引用しました。タイトル通りにありふれた現実と美しい映画や文学について書いていきます。

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