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幕が上がる

すがすがしい青春小説でもあり、素晴らしい演劇論でもあり、さらに深い人生論でもある。平田オリザさんの「幕が上がる」には本当に脱帽した。普通の高校生が努力を続けて素晴らしい成果をあげる。こんなあま~い青春小説とは一線を画し、小説の前半部分でそれをきっぱりと否定している。物語は二人の才能あふれる高校生が登場して初めて展開し始める。演劇の指導者である吉岡先生は二人の登場によって「本気」になった。それはエースと四番がそろった高校野球のチームと同じであり、勝つ条件がそろわなければ結果は出ないことを我々に教えてくれる。そして、この言葉がたたみかける。
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 一生懸命やっているだけじゃダメだ。一生懸命やって、一生懸命やっている自分に酔いしれているだけではダメだ。拍手をもらうだけでもダメだ。一生懸命やれば、親や友達は拍手をしてくれる。でも、今回は違う。拍手の質が違う。
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 褒めて伸ばすという現代の風潮の中で、ちょっとしたことでも褒めてもらえる。まして、一生懸命やっていればなおさらだ。しかし、ほとんどの人はそこで満足してしまい、その上にある質の違う拍手を得ることはできない。そして、この質の高い拍手を得るにはどうすべきかも、演劇部の指導者である吉岡先生の言葉でこう語っている。
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 いろんな演劇教育って、たいてい天才を作ろうとしている。感性を磨くとか言うけど、そんなの無理だと私は思った。感性は教育で磨けるものではないし、天才なら教育する必要なんて必要ない。普通の才能だけを持った我々は、きちんとした理論とか、安定してできる演技法のほうがありがたいと思う。
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 この言葉から「演劇」という部分を抜けばそのまま我々すべての人に当てはまる教育論になっている。普通の才能を持った人が何をすべきか、そして彼らに何を教育すべきか、とても示唆に富んだ言葉である。ただし、普通の才能を持った人とは凡人のことではないと私は思う。凡人とは一生懸命やれば褒められはするが、それ以上の拍手を得ることはできない。誰もが一生懸命やれば、その先にある質の高い拍手を得られるというわけではない。残酷なようだが、それは事実である。さらに、その普通の才能を持った彼女たちに吉岡先生は宮沢賢治の言葉を贈る

おまえの素質と力をもっているものは
町と村との一万人のなかになら
おそらく五人はあるだろう
それらのひとのどの人もまたどのひとも
五年のあいだにそれを大抵無くすのだ
生活のためにけずられたり
自分でそれをなくすのだ

なぜならおれは
すこしぐらいの仕事ができて
そいつに腰をかけてるような
そんな多数をいちばんいやにおもうのだ

もしもおまえが
よくきいてくれ
ひとりのやさしい娘をおもうようになるそのとき
おまえに無数の影と光りの像があらわれる
おまえはそれを音にするのだ
みんなが町で暮したり
一日あそんでいるときに
おまえはひとりであの石原の草を刈る
そのさびしさでおまえは音をつくるのだ
多くの侮辱や窮乏の
それらを噛んで歌うのだ
もし楽器がなかったら
いゝかおまえはおれの弟子なのだ
ちからのかぎり
そらいっぱいの
光りでできたパイプオルガンを弾くがいゝ

 この展開に、ただ脱帽するしかない。彼女たちにこれ以上の別れの言葉はいらないだろう。「がんばれ」という言葉が空虚に聞こえてしまうくらいに私の胸に響いてきた。そして、最後に演目の「銀河鉄道の夜」を通して若者にエールを送る

 「君たちの持っている切符はどこへでも行ける。でも、宇宙はどんどん大きくなっているから、決して端にたどり着くことはできない。」

 若者は無限の可能性を持っている。しかし、世界は広いので、終着点など無い。どこまでも、どこまでも走り続けてくれ。
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Author:Banana fish
村上春樹をこよなく愛する者です。タイトルは「風の歌を聴け」に出てくる台詞から引用しました。タイトル通りにありふれた現実と美しい映画や文学について書いていきます。

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